萩原和幸の新製品レンズレビュー ~ Tokina AT-X 70-200mm F4<後編>
TOPIX
ケンコー・トキナー初の手ブレ補正機構とリング型超音波モーター AF 機能が採用されたフルサイズカメラ対応望遠ズームレンズ「 AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S 」の魅力を、写真家・萩原和幸がお届けする新製品レンズレビュー。後編の今回は、萩原氏しか描けない独自のポートレートの世界へ、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S がどのように馴染んでいくのかを、萩原氏の豊富な作例を用いて解説しています。お楽しみください! by 編集部 |
<前編はこちら>
■ 作品例:室内での撮影
以降の写真で、実画像の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示には注意してください。
■写真1 90mm 域 ( 実画像 )
前回の予告通り、ポートレート撮影での使用感について今回は述べていこう。70-200mm で開放値 F4 というスペックは、そもそもポートレート撮影では相性はいい。まずは開放値 F4 に抑えることで、レンズサイズを小型化し、取り回しが良くなる。ポートレートで取り回し?と思う方もいらっしゃるだろうが、ポートレート撮影はけっこうな運動量になるのだ。モデルが走しるシーンなどはもちろん、ちょっとした仕草や表情に合わせてカメラを上下させたり、フレーミングのために撮影位置を前後させたりなど、ポートレートカメラマンというものは、カメラを頻繁に移動させるときに体も動かしているのだ。だからカメラの重さももちろんなのだが、レンズも軽いにこしたことは無い。一方で、同じ 70-200mm でも、ボケが大きくなる開放 F 値 2.8 のレンズは、設計上から大口径レンズにならざるを得ず、結果鏡筒が大きく重量も重くなりがちなので取り回しの面では優れているとはいいにくい。またボケの面でも、あまりにも大きなボケは人物そのものがボケることにもつながるため、プロの撮影においては少し絞ることが多い。それを考えると開放 F 値が F4 でも十分だといえるだろう。開放 F 値を少々落としても、その分の重量やサイズを軽減することで、手持ち撮影時の体力の負担の方が少なくなるほうが萩原は嬉しいと考える。
■写真2 70mm 域 ( 実画像 )
■写真3 70mm 域 ( 実画像 )
萩原は、室内での撮影においてフルサイズセンサー搭載カメラに 70-200mm クラスのレンズを装着して手持ち撮影することは、普通はしない。しかし今回はこのレンズの取り回し安さを感じていたので、試しに手持ち撮影してみることにした。さらに、テレ端 200mm もある望遠ズームのが、手持ちのポートレート撮影にどこまで対応できるのかを試すためにも、モデルにはどんどん動いてもらい、表情もいろいろと変えてもらった。これは 70-200mm クラスの望遠ズームレンズにとっては、かなり意地悪な撮影だったと思うが、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S のリング型超音波モーターによる AF が静かに素早く反応してくれたことで、標準ズームレンズなみの快適さで撮影を終了することができた。
■写真4 70mm 域 ( 実画像 )
■写真5 90mm 域 ( 実画像 )
実画像の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示には注意してください。
AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S が捉える絵は、クリアで立体感があり、このレンズの解像力の高さがうかがえる。絞り開放でこれだけのシャープさを提供してくれるレンズがあれば、安心して開放での撮影に臨める。シャープな絵だとは言っても、肌をパキパキに見せてしまうような、鋭いカリカリしたシャープさではない。AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S のそれは角のとれたまろやかなシャープさでポートレート向けだ。
■写真6 75mm 域 ( 実画像 )
■写真7 70mm 域 ( 実画像 )
■写真8 200mm 域( 実画像 )
実画像の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示には注意してください。
柔らかい光の少し薄暗い室内において、モデルの一瞬の仕草や表情を狙いたいとき。その場の地灯りが演出する雰囲気を壊さずに撮影したいとき……というシーンを経験したことがあるだろう。そんなとき、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S の VCM( 手振れ補正モジュール )が力強い味方になってくれるはずだ。ここに掲載した写真は、いずれも 1/60 ~ 1/40 秒という、少し遅めのシャッタースピードだ。被写体が動くポートレートにおいて、このシャッタースピードは派手に手振れが起きても不思議ではない。しかし、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S の手振れ補正モジュールの効果は絶大だ。フルサイズカメラで、動く被写体を撮っていることを考えれば申し分のない結果だ。
■ 作品例:気分を変えて屋外で撮影
以降の写真で、実画像の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示には注意してください。
■写真9 70mm 域 ( 実画像 )
■写真10 70mm 域 ( 実画像 )
■写真11 70mm 域 ( 実画像 )
■写真12 70mm 域 ( 実画像 )
AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S が描く肌色の発色はナチュラルで、色白の彼女の肌もいい感じに表現されている。ボケ味に関して、ケンコー・トキナーがこだわったのがよくわかる結果だ。とても自然で滑らかなボケ味といえるだろう。もちろん、ボケの大きさは開放 F 値が 2.8 あるレンズには敵わないが、AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S の描画は自然となじむ優しいボケを描き出す。高解像度ゆえの硬いボケが見られるレンズが多い中、邪魔にならない滑らかなボケ味を重視するというコンセプトを掲げて作られただけあると思う。
■写真13 130mm 域( 実画像 )
■写真14 85mm 域 ( 実画像 )
■写真15 200mm 域( 実画像 )
実画像の文字をクリックするとカメラで撮影した実際の画像が別ウインドウで表示されます。容量が大きいのでモバイル端末での表示には注意してください。
夕方もだいぶ時間が過ぎたころ、広い場所で彼女に好きに動いてもらいながら、僕はただ追いかけるようにシャッターを切り続けた。走っていたかと思うと、その場でくるりと振り向く彼女。そんな大きな動きを捉えるために、ISO は高めに設定。AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S の AF は気持ちよく彼女をの一瞬を捉えてくれるので、僕は都度シャッターを切り続けることができた。開放 F 値でのボケ味をここでも見てみよう。やはり滑らかで柔らかなボケ味が、自然と彼女を浮かび上がらせてくれる。ホールディング性についても満足がいく AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S は、彼女と同じように大きく動いていたはずの僕の手のひらで暴れることもなく、すっかりと馴染んでいた。
■ 作品例:撮影を終えて
AT-X 70-200mm F4 PRO FX VCM-S の操作性の良さは抜群だ。手振れ補正機能とリング型超音波モーターによる AF は撮影を快適にしてくれるだけでなく、光の条件が難しい場面でも撮影意欲をかき立ててくれる。またコンセプト通り、ボケは本当にきれいだ。開放 F 値は F4 であるものの、柔らかくて滑らかなボケ味は、F2.8 に比べてのボケの小ささをカバーするには余りあるほど満足できるできだ。絶対に F2.8 で無ければならないという縛りがないのであれば、ポートレート撮影にはもってこいのレンズといえよう。スペックだけでは語れない、“いい感じ” に仕上がっている魅力的なレンズだ。
■ 制作・著作 ■
スタジオグラフィックス
萩原 和幸